黒字倒産が起きる理由とは。黒字倒産の仕組み

新聞や雑誌などで黒字倒産というキーワードを見たことがあるという人は多いと思います。黒字倒産とは、損益計算書では利益が出ている(つまり黒字)であるのにお金がなくて倒産してしまうことをいいます。黒字なのにどうして倒産してしまうのでしょうか?

損益計算書の当期純利益は現金増加額ではない!

損益計算書は、一定期間の収益からこれに対応する費用を差し引いて利益を計算する書類です。ここで注目すべき点は、損益計算書で算出するのは、当期の現金増減額ではなく、当期「純利益」であるという点です。利益額は必ずしも現金増加額ではありません。このように損益計算書の当期純利益が現金増加額ではない原因は次のとおりです。

  1. 貸借対照表項目の変動による現金収支変動
  2. 非資金項目の存在
  3. 費用収益対応の原則

これらの個別の説明は少し難しいのでまた別のところで書きます。

黒字倒産が起きる仕組み

黒字倒産が起きる理由は、いくつも挙げることができますが、ここでは、代表的な例の一つである掛取引による黒字倒産の例を紹介します。

多くの企業は、商品の売り買いの時に現金で取引を行うのではなく、掛取引を行います。掛取引とは、取引毎に現金のやり取りを行うのではなく、翌月以降まで支払い、又は、請求を待つ取引をいいます。

例えば、A社が1月に次のような条件の取引を行ったとします。なお、このA社の取引条件は、次のとおりとします。

売上:2ヶ月後回収
仕入:翌月後支払

  • 翌月払いの掛仕入れ 6,000円
  • 2ヶ月後請求掛売上 10,000円
  • 1月1日現金残高 4,000円

1月の損益計算書では、売上高10,000円、売上原価6,000円なので利益は4,000円になります。ただし、この売上代金の10,000円は、2ヵ月後受け取りの掛売上であるため1月にはお金は入ってきません。また、仕入れ代金も翌月払いであるため支払う必要がありません。つまり、現金収支額は0です。このように損益計算書では利益が4,000円と黒字になっているにも関わらず、現金は増えていません。

黒字倒産の具体例 1月PL

次に先の条件に加えて、2月にもうひとつ次のような取引を行ったとします。

  • 翌月払いの掛仕入れ 10,000円
  • 2ヶ月後請求掛売上 16,000円
  • 2月1日現金残高 4,000円

2月中には、これ以外取引がないと仮定します。損益計算書上では、売上16,000円、売上原価 10,000円なので、2月の利益は6,000円あります。ただし、これらの取引も1月の取引と同様に、仕入代金の支払い、売上代金の回収共に2月に行わないので、この取引による現金収支額は0円です。しかし、先月の仕入れた商品の支払い6,000円があります。2月の取引では現金収支がないので、2月の掛代金支払い時の現金保有額は4,000円となり、2,000円不足してしまいます。

…倒産です。

黒字倒産の具体例 2月PL

小売業は黒字倒産しにくい

一般的に小売業は、他の業界に比べて黒字倒産しにくいといわれています。その理由は、小売業の売上の多くが現金取引であるのに対して、仕入れが掛取引であるからです。2ヶ月後支払いの商品を10,000円で仕入れて15,000円で販売し損益計算書では利益が5,000ですが、現金収支は+15,000円になります。仕入代金10,000円は2ヵ月後です。

黒字倒産の具体例 1月PL 小売業

このように小売業は他業界に比べて黒字倒産しにくいことがわかります。ただし、小売業は黒字倒産の危険性がないというわけではありません。黒字倒産の原因には、先に示したように他にもあります。

原因は資金繰り管理

このような黒字倒産を防止するためにはどのようにしたらよいのでしょうか。黒字倒産防止には現金がいくらあるかを把握する必要があって、この現金の増減を把握するための計算書類で資金繰り表というものがあります。資金繰り表は貸借対照表や損益計算書とは違って税務署や金融庁に報告する書類ではないのでその書式は多種多様ですが、一般的な帳票で、かつ、わかりやすいものを用いて先の黒字倒産の事例について資金繰り表を作成してみます。

黒字倒産の具体例 資金繰り表

このように2月に資金が2,000円足らなくなり、それは4月になるまで解消されないことがわかります。

このA社の黒字倒産を回避するためには?

A社の黒字倒産を回避する方法はいくつもあります。

  1. 掛売上の回収早期化、又は、掛仕入の支払長期化
  2. 現金売上の増加
  3. 借入金
  4. 固定資産などの資産売却 など

この中で最も取り組みやすいのが、3.借入金の活用と4.固定資産などの資産売却です。というのは、1と2ともに取引先などに負担を強いることになるため受け入れてもらえるかどうか不確実であるからです。A社の資金繰りが良くなるということは、取引先にとっては資金繰りが悪化するということになります。売上先の掛代金の回収を早期化すると、売上先はそれだけ早く現金を用意しなければならなくなります。売上先にこのようなことを要求すると、もしかすると取引停止になるかもしれません。

このように上記回避法で最も取り組みやすい方法は、3と4になります。3、4ともA社で行えることです。ただし、これらについても問題があります。それは、銀行が貸してくれるかどうか不確実ですし、また、いつでも売却して必要資金を確保できるような固定資産などがあるかどうかもわかりません。また、これは臨時的な手段です。毎回このような方法で資金繰りをするのは良い資金繰りとはいえません。特に4.固定資産などの資産売却は、最後の手段です。

このように考えるとA社の場合、最も良いと思われる資金繰り解消法は、「掛仕入の支払長期化」です。仕入先なのである程度の融通がきくと思われます。

仮にひと月だけ支払いを延ばしてもらうどうなるかシュミレーションしてみます。

黒字倒産の具体例 資金繰り表 改善版

このように、掛仕入れの支払をひと月延長することにより資金繰りが解消され、黒字倒産を回避することができました。

上場企業に義務付けられているキャッシュフロー計算書

資金繰り表は、貸借対照表や損益計算書のように作成を義務付けられておらず、公表している企業もありません。一般的に資金繰り表は、企業内部で資金不足にならないように管理するために作成しているもので、企業外部の人が目にすることはあまりありませんが、バブル崩壊後の黒字倒産が増えてきて投資家が会社の資金管理について強い関心を示すようになりました。損益計算書と貸借対照表だけで黒字倒産を見抜くのは難しいですからね。投資家などからの要請もあって、2000年3月期(1999年4月1日から開始する事業年度)から証券取引法に基づく上場企業等についてキャッシュフロー計算書の作成・開示が求められるようになりました。さらに2000年9月期(2000年4月1日から開始する中間事業年度)から中間キャッシュフロー計算書の作成・開示が求められています。 キャッシュフロー計算書とは、一定期間におけるキャッシュフローの状況を一定の活動毎に区分して表示する計算書のことをいいます。

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